ファンブックとブックデザイン

キャラクター図鑑や作品の見所を振り返る形の単行本サイズのファンブック、長期連載作品の場合はムックやアニバーサリマガジン、ジャンプの黄金期を支えた作品群に限っていえば週刊少年ジャンプ50周年を記念した特別版ジャンプ風ファンブックなど漫画単行本とはまた違う関連書籍が出版されるのが昨今の流れである。しかし、ファンブックというものがジャンプ編集部・集英社とは違う出版社からコラボという形で出版された際にブックデザイン・装丁はどのように変化するのだろうか。これを先月末発売された『超人』図鑑を一例として考えてみたい。


こちらが従来のファンブックと言われる書籍であり、

こちらが先月学研により発売された『超人』図鑑である。カバーの時点で違いは一目瞭然である。

この『超人』図鑑は、70年代から90年代にかけて出版された「学研の図鑑」シリーズのブックデザインに忠実にならっており、ブックカバーおよび本のカバー両方に原色の丸がレイアウトされている。時代が降ったものでは、丸にハイライトが入ったりしているが、カラフルな丸のモチーフは一貫してどの図鑑にもあらわれている。(以下の写真は紀伊国屋新宿本店『図鑑の歴史を辿る写真展』より、6月9日まで。)

では、図鑑の中身はどうかというと、こちらも学研の図鑑を忠実に再現している。例えば、「本当の大きさです」という動植物の原寸大の写真が印刷されているページは以下のように再現されている。(展示パネル写真左上部参照)

では、個々の超人の紹介のページはどうなっているかというと、超人が「哺乳類のなかま」「食べ物のなかま」「ヒト型超人のなかま」といった感じで細かく属性で分類されており、分類ごとに様々な超人が3Dイラスト(3D風に着色してあるイラスト?)付きで紹介されている。原作のコマにそのまま着色を加えたイラストや、外見・形状が変化する超人の場合は丁寧な線で描かれ平面的に着色された描き下ろしイラストも必要に応じて加えられている。超人のプロフィール欄は完結に書かれており、超人の作中での活躍というよりは出身地や所属団体、技など超人自身の特性のみについて触れられている。

従来のファンブックでは、やはり作中での活躍、ベストマッチ(一応プロレス漫画であるため)、他の超人と比べた際のランク、名台詞などがピックアップされるため、図鑑という媒体に適切な情報の選択の仕方がなかなか面白いと感じた。

【以上は公式により既に公開されているページをなるべく使ったが、以下はネタバレ要素を含むのでどうか自己責任で閲覧していただきたい】


しかし、この図鑑はただの図鑑ではない。従来の図鑑の題材になる動物や植物、乗り物などとは違い、漫画には世界観、そして物語がある。個々の超人のプロフィールでは作品のプロットについて触れられていなかった分、本の構成で本作品の世界観、そもそも超人たちが戦っている理由、つまり根底にある超人界の歴史というものが壮絶なスケールで表現されている。

各章の冒頭部に、始祖と言われる超人界の起源となったキャラクターたちがそれぞれ聖書を彷彿とさせるエピグラフらしきものと一緒に配置されている。背景にはそれぞれのキャラクターの能力に関わる風景写真が使われており、デザインも文字とローマ数字が左のページ、キャラクターが右のページと一貫性が保たれている。これらの章のはじめのページだけを見る事により、図鑑という媒体では表現が限りなく難しい筈の作品の根底にある世界観が一望できる仕組みになっているのだ。

こちらの図鑑の企画・編集に携わった学研プラスの芳賀靖彦氏(ジャンクマンという主要な悪魔超人のデザインを投稿した方)の図鑑製作に対するこだわり、および作品への愛を深く実感させられた。昨今紙媒体の絶滅が騒がれているなか、紙媒体だからこそできる事を実現した一冊であったと感じた。


【参考文献】

鈴木賢志・湯浅裕行編(2018)『大解剖ベストシリーズ キン肉マン大解剖』pp.52-3, 三栄書房.

ゆでたまご(2014)『キン肉マン公式ファンブック 超人閻魔帳』pp. 80-1, 集英社.

ゆでたまご監修, 芳賀靖彦編(2019)『学研の図鑑 キン肉マン「超人」』pp. 8-9, 24-5, 80-1, 234-5, 学研プラス.

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グラフィックデザイン科の学生として日々考えている事など

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